好きな本~「鹿の王」~

私の好きな本

 今日は好きな本について書きたいと思います。
 取り上げるのは上橋菜穂子さんの「鹿の王」です。
数年前にアニメーション映画にもなりましたが、この壮大な物語を2時間弱の映像にまとめるのは、やはり難しさを感じましたので、ぜひ原作を読んでいただきたい作品です。
そして、私がこの作品に対して感じている一番大きな気持ちは“コロナ禍の前にこの本に出合えてよかった”ということです。

 大まかなあらすじですが、
強国“東乎瑠(ツォル)”の支配のもとに生きる“アカファの民”という2つの民族(同じ民族のなかでも、物語中ではさらにそれぞれの立場が細分化されています)の対立と融合を背景に、恐ろしい病魔“黒狼熱(ミッツァル)”の蔓延と、それに立ち向かう医師や、片やそれを利用しようとする者たちが織り成す人間ドラマを描いています。
基本はファンタジー作品ですが、そのなかに巧みに医療ドラマが組み込まれているので、もしかしたら上橋菜穂子さんの作品のなかではかなり大人向けかもしれません。

 ファンタジー作品なので、現代のように医療が発達した世界が舞台ではありません。
およそ、日本の江戸期、中世のころをイメージしていただけるとわかりやすいのではと思います。
そんな世界ですから、人々は病理に関する正しい知識を持ち合わせているわけではなく、病魔は他族の呪いではないか、または神の加護と精神の力で打ち勝てると、現代の私たちが読めば切なくなるほどの混乱と混沌のなか病気と向き合うことになります。

 しかし、医療が大きく発展を遂げた現代においても、私たちはこれにちかい混乱を経験しました。
記憶にも新しい、なんなら、いまだ尾を引くコロナ禍です。
きっと、それぞれの立場によって、皆さんの心にも様々な気持ちがよぎったであろうかと思います。
何が間違いで何が正しいかともいえない混乱のなかで、それぞれが最善と考える行動なさっていたことでしょう。
そしてなにより、そんな混乱のなかでも社会のインフラ・保健衛生維持のため働いてくださっていた方々には、ただただ頭が下がります。

 この本の内容が、まったく今回のコロナ禍と重なるかと言えば、そうではない点も多々あります。
ですが、一つ言えるとすれば”病は人を選ばない”ということを刻みつけられた気がします。
どんなに体調や衛生に気を付けていても罹患するときはするし、リスクのある環境下にいても発症しない人もいます。

 確かに、病気になった原因の特定が容易なパターンというものも存在します(不摂生によって肥満や糖尿病になる、というのがこれにちかいでしょうか)。
しかし、病気になるということは誰にでも起こりうることであり、その事実だけを切り取って、その人の生活や、生き方や、心の在り様、ましてやその人個人が否定されることは、絶対にあってはならないと感じるのです。

 私も、ある意味では心を病んだ人間の一人だったのだと思います。
最初は、自分が不甲斐なく精神的な弱さゆえにこんな状況になったのだと自責の念にかられました。
しかし、きちんとした治療を進めるなかで、そんな自責は解決にはならないこと、そして私の精神的不調の要因は私個人の性質がどうかというものでもないことを教えてもらい、学んでいきました。

 私が作っているハンドメイド作品のなかに、本をテーマにしたものがありますが、いつかこの「鹿の王」も作品という形に落とし込んでみたいと思う書籍の一つです。

 最近は、もうコロナ禍も終焉、という言葉も耳にするようになりました。
きっと、あと5年もすれば、今幼い子どものなかにはコロナ禍のことを知らない・覚えていない、という子も出てくるでしょう。
最近は、そうした世代の人たちに、病気に対する向き合い方をどう教えていくかということが、大人としてコロナ禍をすごした私たちの世代に課せられた一つの命題のように思えるのです。

画僧より販売ページにアクセスできます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました