前回の記事でディオール展について書かせていただきました。
今回の展示で一番見てみたかったのは、トワルの部屋です。トワルとは、ひとことで言うと試作品です。本布にちかい質感の、白無地や生成り色の布で仕立てられます。トワルは本縫製にはいる前段階において、シルエットを確認するために欠かせないものです。ただ、やはり試作品のため、その存在が表にでてくることはほとんどありませんし、服飾にたずさわったことがない人にとっては「トワルって何?」という感じではないでしょうか。
下の写真は本展の展示品です。
一見すると、これだけで十分きれいな白のセットアップに見えますが、これもトワル、つまり試作品です。試作の段階でこんなにこまやかな(‼)プリーツを作るのは大変そうですが、ここを丁寧に作らないと本番で同じようにプリーツを折れるかわからないですからね…。
そして、ありました!私が大学でファッションを学び始めて間もないころに衝撃を受けたChristian Dior 2007S/S オートクチュールコレクションのトワル!
下の写真が本展に展示されていた展示品です。これが、本番では鮮やかなピンクのスーツに仕立てられて登場しました。こうして見比べると、トワルの段階でかなり正確かつ丁寧な仕立てがされているのがわかります。
このときのコレクションは、日本の折り紙の技法に着想をえた、主任デザイナーのジョン・ガリアーノらしさが存分に発揮された大胆な構成だったため、トワルの段階でかなり綿密に組まれていったのだろうな…ということが想像できました。
試作とか、下書きとか、そういう言葉だけを聞くと”失敗してもいいもの”というイメージを持つかもしれません。ただ、本展で展示されていたトワルを見ると、それはけしてただの”お試し”ではなく”完璧へと向かうための正確な地図”なのだと思わされます。ディオールにかぎらず、世界の歴史ある有名メゾンには、こうして受け継がれてきた確かな技術と、職人たちのプライドがあります。
だからブランド物はいいですよ、と安直に言うつもりはありません。高価な服飾品を求めるのは、世界の中でもごく限られた富裕層だけ、というのもまた現実です。ファッションを芸術表現のひとつとするのも、ある一定以上の生活水準を満たした社会でこそできる贅沢です。
大切なのは、この服一着を完璧に仕立てるために、長い時間をかけ高度な技術を習得した職人たちがいること、美しさを探究しつづけるデザイナーたちがいること、仕立てられた服を美しく表現するために周りを固めるプロフェッショナルたちがいることです。
そして、それらが結集して生み出された展示品はすべて、誇りを持ってはたされた“仕事”だということだと思います。
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